予約システムの導入を止めている理由が、機能でも料金でもないことがあります。「今までのデータが、どうなるのか分からない」。ここが最後の引っかかりになって、話が止まる。実際、私たちが院長からいちばん多くいただく質問もここです。
書いているのは、整骨院・接骨院向けの予約管理システム「SyncotBase」を開発・運用している合同会社Rhythmwalkerです。都内で長年営業する整骨院と共同開発し、導入院の本番環境を保守しています。Excelからの一括取込の機能そのものを作って、実際に院のデータを流している側から、何が移って何が移らないのかを正直に書きます。
この記事の答えを、先に一行だけ書きます。移るのは名簿です。移らないのは予約です。 そして、移らないほうを先に知っておけば、切り替えの日に慌てることはありません。
なお、この記事は「入れるとき」の話です。紙の台帳をやめる段取りそのものは別に整理してあります。解約して「出すとき」のデータについては、整骨院のカルテ、システムをやめた後も残りますかで書きました。
移行が終わった朝、画面はこうなっています
この記事は、少し変わった順番で進めます。移行がすべて終わった翌朝、画面に何が映っているかから始めます。
その朝、患者一覧を開くと、これまでExcelで管理していた患者さんの名前が並んでいます。施術メニューも、スタッフも、営業時間も入っています。院の情報も設定済みです。ここまでは、想像されているとおりだと思います。
そして、予約表は空です。
来週の予定も、先月の来院履歴も、そこにはありません。まっさらなカレンダーが表示されています。
これが、正常な状態です。
私たちが伝えたいのはこの一点で、この朝の画面を先に知っているかどうかで、切り替え当日の体験がまったく変わります。知らずに迎えると、「取り込みに失敗したのではないか」と思います。知っていれば、想定どおりの朝として通り過ぎます。
ですので以下は、この朝の画面から逆に辿ります。なぜ予約表が空なのか。空でない部分には何が入っているのか。それを入れるために、何を用意するのか。
予約は、移りません
まず、空のほうから。
Excelからの一括取込に、予約のシートはありません。 取り込みの対象として用意されているのは、院の基本情報・営業時間・臨時休業日・施術メニュー・スタッフ・(ジム向けの)トレーニング種目・患者情報です。予約はこの中に入っていません。
過去のカルテ(施術録)の本文や写真も、同じく取り込みの対象には入っていません。
これは仕様です。近いうちに対応します、という話でもありません。ですので、「過去の予約も含めてまるごと引っ越せる」と考えて計画を立てると、その計画は崩れます。
では困るかというと、実際にはそれほど困りません。理由は2つあります。
ひとつは、入れ直す必要があるのは「これから先の予約」だけだからです。切り替えた時点ですでに入っている先の予約は、たいてい数週間分にとどまります。手で入れ直せる量です。切り替え日を決めて、その日から先の予約だけを画面に入れていけば足ります。
もうひとつは、過去の予約は、いま記録が残っている場所に置いたままでいいからです。新しい画面に入れ直す作業は、かける労力に対して、後から見返す回数が少なすぎます。必要になったときに、元のファイルを開けば済みます。
関連記事:紙の台帳をやめるときに、何が消えて何が新しく増えるのかは整骨院の予約管理を効率化するにまとめました。切り替えの順番そのものは、あちらの記事の担当です。
移るのは「名簿と、院の決めごと」です
空でないほうを見ます。取り込みで入るものは、性質の違う2つに分かれます。
ひとつは名簿です。 患者さんの氏名・生年月日・連絡先といった基本情報。これがこの記事の本命で、Excelで管理されている中身のほとんどはここに当たります。
もうひとつは、院の決めごとです。 営業時間、臨時休業日、施術メニュー、スタッフ。「うちは水曜が休みで、第2・第4土曜だけ午前中を開けている」「初回検査は60分、メンテナンスは30分」といった、これまで院長の頭の中と紙にあった条件です。
この2つ目が、意外と効きます。
新しいシステムを使い始める初日にいちばん時間を取られるのは、患者さんの登録ではなく、この決めごとを画面の設定として入れきる作業だからです。営業時間が入っていないと予約枠が出ません。メニューが入っていないと所要時間が決まりません。ここが取り込みで一緒に入っていると、初日にやることが大きく減ります。
なお、設定系の扱いには決まりがあります。院の基本情報と営業時間は、まだ何も設定されていないときにだけ自動で入ります。 すでに設定済みの状態で取り込むと、上書きしていいかを確認されます。勝手に書き換わることはありません。
施術メニュー・スタッフ・臨時休業日は、追加されるだけです。同じ名前のメニューや、同じ氏名のスタッフ、同じ日付の休業日がすでにあれば、それは飛ばされて、飛ばしたことが警告として表示されます。ですので、同じファイルを二度流しても、メニューが二重に並ぶことはありません。

手元のExcelは、そのままでは使えません(そして、それでいい)
ここは正直に書きます。
お手元のExcelファイルを、そのままの形でアップロードすることはできません。 決まった様式のテンプレートがあり、そこに写していただく形になります。
記入見本の入った空のテンプレートを管理画面からダウンロードできるので、ゼロから列を考える必要はありません。ただ、写す作業そのものは残ります。そして実務上、移行でいちばん時間を使うのはこの工程です。取り込みのボタンを押す時間ではありません。
写すときに効いてくるのは、次の3つです。
- 氏名は必ず必要です。 空欄の行はエラーになります
- 生年月日は西暦8桁で書きます。1985年4月3日なら
19850403です。和暦や1985/4/3のような書き方は通りません - メールアドレスは形式まで確認されます。
@が抜けている、全角が混ざっている、といった行はエラーとして出ます
Excelで長く管理していると、この3つはかなりの確率で崩れています。生年月日が和暦の行と西暦の行が混ざっている。「様」が氏名に入っている。メール欄に「なし」と書いてある。移行作業の実体は、この崩れを直す作業です。
ですので私たちは、ここを院長おひとりに任せていません。テンプレートのご案内から最初の取り込みまでを、初期設計・データ移行の伴走としてご一緒します。初期費用は、この伴走に充てられます。
崩れ方は院ごとに違います。和暦の行が混じっているだけなのか、そもそも氏名が姓と名で分かれていないのか。どのくらいの作業量になるかは、いまのファイルの列を見てみないと言えません。システム選びの話は後回しにして、移行の見通しだけ先に立てておく——そういう進め方でも遠回りにはなりません。
「反映」を押すまで、システムには何も入りません
ここが、この機能でいちばん申し上げたい部分です。
取り込みは、一度で決まりません。アップロードして、内容を確認して、それから反映する。この2段階になっています。
アップロードした時点では、システムには何も書き込まれていません。 ファイルを読んで、中身を画面に出しているだけです。この段階で表示されるのは、次のようなものです。
- シートごとに、何件のデータが読み取れたか
- エラーがあれば、どのシートの、何行目が、なぜ通らなかったのか
- 上書きになる項目や、重複として飛ばされる行があれば、その警告
つまり、押す前に結果が見えます。件数が想定と違えば、そこで気づけます。エラーが出ていれば、行番号が分かるので、その行だけ直せます。
そして、反映を押す前なら、やり直せます。ファイルを直して、上げ直すだけです。ここで時間をかけて構いません(短い時間に続けて上げ直すと一時的に制限がかかりますが、少し待てば再開できます)。
反映を押したあとは、画面から患者さんごとに直す形になります。ですので、確認はプレビューの画面で止まっているあいだにしてください。
安全側に倒している点が、もう2つあります。ひとつは、読み取れたデータが1件もないときは、反映のボタンを押せないようにしていることです。シートの名前が想定と違っていて中身が読めていないのに、「0件を正常に取り込みました」と表示されて終わる——これがいちばん危ないので、警告を出して止めます。
もうひとつは、反映が途中で止まっても、半分だけ入った状態にはならないことです。うまくいけば全部入り、失敗すれば元のままです。中途半端な状態から手作業で復旧する、という事態は起きません。
名簿は、全部持っていかなくて構いません
ここからは、機能ではなく院の判断の話です。
患者情報の取り込みには、いくつか数の決まりがあります。
- 1回にアップロードできるのは2,000行まで(超える場合は分けて流します)
- 登録できる人数の上限はプランごとに決まっています(Lightは500名、Standardは3,000名)
- 上限は、登録されている患者数で見ます
重複についても、ひとつだけ正確にお伝えしておきます。患者さんの重複は、メールアドレスで見ています。同じメールアドレスの行は、ファイルの中の重複も、すでに登録されている方との重複も、自動で飛ばされます。逆に言うと、メールアドレスが空の行は、重複として判定されません。ですので分けてアップロードするときは、範囲が重ならないようにしてください。
そのうえで、考えていただきたいことがあります。その名簿、全員を連れて行く必要がありますか。
Excelの患者台帳は、たいてい消されずに積み上がっています。何年も前に一度だけ来られた方も、引っ越された方も、同じ一覧に並んでいます。そのまま全部を移すこともできますが、移行のタイミングは、名簿を棚卸しできる数少ない機会でもあります。
決まった目安はありません。直近数年に来院された方までに絞る考え方もありますし、全部入れておく考え方もあります。どちらが正しいということはありません。ただ、「全部移すのが当たり前」と考えずに、一度決めてから移すほうが、後の画面は見やすくなります。
迷われる場合は、直近の方から先に入れて、後から追加することもできます。そのときは、先に入れた範囲と重ならないようにだけ気をつけてください。
移した月だけ、数字が跳ねます
最後に、取り込みが終わった後の話をひとつ。これは実際に運用していないと気づきにくい部分です。
SyncotBaseのダッシュボードには「今月の新規登録」という数字が出ます。その月に新しく登録された患者さんの人数で、これはどのプランでも表示されます。
一括取込で入れた患者さんも、この数字に含まれます。
ですので、移行した月だけ、新規登録の数が実態とかけ離れて大きく出ます。300人分を取り込めば、その分がまるごと上乗せされます。これは不具合ではなく、「登録された人数」を素直に数えているだけです。
知らないと、翌月に数字が急に落ちたように見えて、集客が悪化したと勘違いします。移行した月の数字は、判断に使わないでください。 見るのは翌月からです。
ちなみに、この「新規登録」とは別に「初回来院」という指標もあります(こちらは分析画面の指標なので、ご覧いただけるのはStandardプランです)。実際に来院された月で数えるため、取り込みでは動きません。使い分けの詳しい話は、また別の記事にします。
SyncotBaseの場合
私たちのシステムでどうなっているかを、制約から先にまとめます。
- ファイル形式は
.xlsxのみ。ファイルサイズにも上限があり、超えた場合は画面でお知らせします - 患者情報は 1回2,000行まで。登録上限は Light 500名/Standard 3,000名
- スタッフの登録は Standard で5名まで。Light にはスタッフ管理の機能がありません(院長おひとりでの運用が前提です。スタッフのシートに2名以上あるとエラーになります)
- トレーニング種目の取り込みは Standardプランのみ(Lightでは警告を出して読み飛ばします)
- 予約データは、過去の履歴もこれから先の予約も、取り込みの対象外です。カルテも対象外です
そのうえで、できることです。
- 取り込みは管理画面の「初期データ取込」から、院ご自身で実行できます。記入見本つきの空テンプレートは、ここから取得できます
- アップロード → プレビューで確認 → 反映の2段階で、反映前は何も書き込まれません
- エラーは「どのシートの、何行目が、なぜ」の形で表示されます
- メニュー・スタッフ・休業日は追加のみで、既存のものを書き換えません
- 取り込みの記録には、患者さんの氏名や連絡先そのものは残しません(件数だけを記録します)
費用の話も一言だけ。SyncotBaseには初期費用があります(Light 15,000円・税込16,500円/Standard 25,000円・税込27,500円)。初期費用が0円のサービスもあるなかで、これは短所です。ただ、この費用はお試し期間の前にお預かりして、続けられない場合は全額返金します(振込手数料を除く)。続けていただく場合にのみ、初期設計・データ移行の伴走の費用に充てます。テンプレートのご案内から最初の取り込みまで、ご一緒するのはこの中でのことです。
どのシステムを選ぶかという基準そのものは、予約管理システムの選び方ガイドに7つ整理してあります。この記事は、そのうち「乗り換えるとき」の中身を開いたものです。
移行できるかどうかを、契約前に確かめたい方へ。 お手元のExcelを見ながら、「何が移って、何を入れ直すことになるか」を具体的にお伝えします。
よくあるご質問
Q. お手元のExcelの列は、そのまま使えますか。
A. お手元のファイルをそのままの形でお使いいただくことはできません。決まった様式のテンプレートに写していただく形になります。記入見本つきの空テンプレートを管理画面からダウンロードできますので、列をゼロから考える必要はありません。写す作業自体は、初期設計・データ移行の伴走の中でご一緒します。
Q. 患者さんが2,000人を超えています。
A. 1回の取り込みは2,000行までですので、分けてアップロードしてください。そのとき、範囲が重ならないようにしてください。重複の判定はメールアドレスで行うため、メールアドレスが空の行は重複として飛ばされず、範囲が重なると同じ方が2件登録されることがあります。なお、登録できる人数の上限はプランごとに別にあります(Light 500名/Standard 3,000名)。
Q. 取り込みを間違えたら、やり直せますか。
A. 反映を押す前なら、やり直せます。アップロードした時点ではまだ何も書き込まれておらず、件数とエラーを確認してから反映する流れです(短い時間に続けて上げ直すと一時的に制限がかかりますが、少し待てば再開できます)。反映したあとの修正は、画面から患者さんごとに直す形になります。ですので、プレビューの画面で止まっているあいだにご確認ください。
Q. 何年も来ていない患者さんも、全部入れたほうがいいですか。
A. 機能としては入れられますが、判断は院ごとです。プランごとに登録できる人数の上限があるため、移行を名簿の整理の機会にすることもできます。迷われる場合は、直近数年に来院された方から入れて、後から追加することもできます(そのときは、先に入れた範囲と重ならないようにしてください)。
まとめ
乗り換えのときに移るのは、名簿と、院の決めごとです。移らないのは、予約とカルテです。移行が終わった朝、患者一覧に名前が並び、予約表が空になっているのが正常な状態です。
手を動かす時間のほとんどは、取り込みのボタンではなく、Excelを様式に写す作業にかかります。生年月日の書き方、氏名の表記、メールアドレスの形式。ここを整えれば、あとはプレビューで確認して反映するだけです。
そして、反映を押すまでは何も書き込まれません。確認する時間は、いくらでも取れます。移行は一発勝負ではない、というのが、この記事でいちばんお伝えしたかったことです。
